みなさんは子どもの頃、虫を探して遊んだ思い出はどれぐらいあるでしょうか。筆者は決して自然豊かとは言えない東京の街中で生まれ育ちましたが、それでも小学生の頃には公園や路地裏、学校の校庭を舞台に、ジグモを釣る、ダンゴムシやカタツムリを掘り出す、アゲハチョウの幼虫やトンボのヤゴを捕まえて育てる……などといった遊びに熱中していたことを覚えています。種類や数の差こそあれ、地域を問わずに虫たちは私たちの暮らしのすぐそこに住む隣人であると言えるでしょう。
さて、現在高知で見ることのできる「虫の遊び」のひとつとしては、四万十市の中村で行われる「女郎ぐも相撲」があります。これは、クモの一種である「女郎ぐも」(標準和名:コガネグモ)を1本の横棒の上で闘わせる遊びです。中村では毎年8月、町の中心部にある一條神社でこの遊びの大会である「全日本女郎ぐも相撲大会」が開かれ、地域の子どもたちが自慢のクモを持ち寄り優勝に向けて鎬を削ります。筆者は平成31年、修士論文執筆に向けた取材のために初めてこの大会を訪れましたが、出場する子どもたちだけでなく、その子どもと一緒にクモを捕まえ、場合によっては育て上げてきた両親や祖父母もまた、手に汗を握って試合を見守る姿から、この遊びが世代を超えて伝承されてきたであろうことを窺い知ることができました。

「全日本女郎ぐも相撲大会」(高知県四万十市 令和7年8月2日 筆者撮影)
試合の様子を詳しく見てみましょう。まず闘いの舞台ですが、中村の大会では、木材の支柱に横棒を固定したものが使われます。クモの勝敗を判定する行司はそれぞれの参加者からクモを預かり、横棒の上に向かい合うようにとまらせて闘わせます。多くの場合は棒から落ちたクモが負けとなりますが、それ以外にも噛みつく、糸で巻くなどの「決まり手」がルールに定められているところは人間の相撲さながらです。

「女郎ぐも」の闘い(高知県四万十市 令和7年8月2日 筆者撮影)
高知県全体に目を向けて調べを進めてみると、かつては中村と同じような「クモを闘わせる遊び」は県内各地に分布していたようです。これまでの筆者の調査では、最も西側で宿毛市沖ノ島、最も東側で東洋町甲浦にてクモを闘わせて遊んだという体験談を聞き取ることができました。高知県の広い範囲、特に太平洋に面した地域では、意外にポピュラーな遊びとして伝承されていたことが窺えます。
さらに視野を広げてみると、昭和30年代頃までは、九州から房総半島までの太平洋沿岸を中心に、日本列島の様々な地域でこうした遊びが行われていたようです。現在も見ることのできる例をいくつか挙げれば、鹿児島県姶良市加治木町や、神奈川県横浜市、千葉県富津市などで、地域の愛好会・保存会による大会が開かれています。加治木町などでは中村と同じくコガネグモを棒の上で闘わせるのですが、横浜市、富津市といった東京湾周辺の地域では大きく変化があり、「ホンチ(横浜市)」、「フンチ(富津市)」などと呼ばれるハエトリグモの一種(標準和名:ネコハエトリ)が主役となることが特徴です。
「フンチ」の闘い(千葉県富津市 令和8年5月4日 筆者撮影)
子どもの遊びといえども、詳しく探ってみると広い地域とつながる文化の姿が見えてくることがあります。さて、子どもの頃を思い返すと、みなさんはどんな虫にまつわる遊びが思い浮かぶでしょうか?
筆者はこうした「遊び」の視点からも、高知の豊かな自然と人間とが関わってきた文化を明らかにしていきたいと考えています。
